作品詳細

夢織人

夢織人

上野芳久

表現の持続というものは、生きる証

上野芳久の詩集は2008年の『さすらい』から13作目である。
その間に埼玉文芸賞、戸田市一般功労賞を受賞した『田中恭吉 生命の詩画』が有る。
兄でもある表紙絵の画家、上野玄春と妻を失った後、書かれ始めた詩集である。
『さすらい』では生きるもどかしさに戸惑い、数々の詩集を紡ぐ中でその足取りは標された。
『夢織人』とはそんな足取りを振り返り、自らの生と死を綴る。


静かな光

森に木洩れ日が揺れている
過去に何事も無かったように
喜びの世界を誘うように旅の道程は
太陽の下で光と影を生むのであった
光は運命の悪戯を鎮め静寂を生んでいる
生命は静かな勇気を持って育まれる
時の流れは祈りを生み
木洩れ日は天然の希望の光である
未知とはどのような世界であろう
鳥の声と水音の高なりが森の静寂を深め
悲傷と歓喜が和解する
平和を呼び込む世界の憧れは光と共にある

静かな光は沈黙の希望である
谷を渡り峠を越えて故郷へと帰る日は何時だろう
生命に讃歌が生まれるように無言を呑む
季節は移り鎮魂の祈りを沈め
幸多き未来への光景を望んで声は響くのであった
森に揺れる木洩れ日は祈りである
無風の森蔭に歩行を進めれば遠景の夢に誘われる
緑も映えて木洩れ日が揺れている
故郷は何処かと尋ねれば微笑が浮かぶ
木洩れ日とはつかの間の平和の象徴なのだ
望みが高ければ道は自ずと拓けて見えてくる
光とは森の宿命に差した季節の光彩なのだ
旅は挑む所に新たな光景を生む
世界の歪みは自ずからなる中心の喪失に依る
原郷に光が差せば希望の褥となり夢を生む
青空の光と共に情熱を静かに燃やせば

時の流れの歳月の苦境も喜びに変えられる
不幸を鎮めれば幸福への希望も生まれてくる
木洩れ日を静かに浴びながら夢を織る
旅人はその道標に沿って希望へと憧れるものだ
望みを果たす為に山川草木の匂いを呑み込み
生命の尊厳を礎に歌を詠めば讃歌が生まれる
峠を越えていく意志を固める
森が静かな光と共に在るならば夢は果てなく
願うならば祈りの滝に打たれて目覚めたように
峠で幸を暗示した声と共にありたいものだ
静かな光が情動の森に差している
微動もしない念願に旅の果ての讃歌を望めば
旅の行路は宿命として定まってくる
木洩れ日が森の奥に揺れて見える
時は充足を求めて飢え渇くのだ
光とは天然の夢の希望であろう

静かに差す光の夢を織って旅を行けば
理想郷への願いの道も拓けるだろうか
木洩れ日はその遠景へと誘うのであった
償わなければならぬ愛が見え隠れするなら
旅路の遠景が望まれる
面影と共に生まれる静かな眼差しがあるから
木洩れ日は平和と和解の希望の内にある
静かな光が森に揺れている

詩集
2019/09/27発行
A5判 並製 カバー付き

表紙絵:上野玄春

2,750円(税込)