作品詳細

ヤカモチ

ヤカモチ

三井喬子

殺された生き物たちが光っている
生きるか死ぬか、
もちろん わたしは食べるのだ。

白い牝牛


暮れつかた、家の内でも外でもないところ、境界としも言うべきか、繰り返し繰り返す波、風音、痛みかも知れない違和感の、差し迫った呼吸、濡れた、温かい感触の、水かも知れない揺らぎを反芻する、月夜の、
月夜の牝牛。

軒下で生まれたててなし児、目ばかり黒々大きくて、本当に牛の子かな、白いあたしの子供かな、あれ一人、あれふたぁりと、あたしのお乳呑んで、争うこともない消耗の、月光のせいばかりとは言えますまいに、しらじらと月夜の、
月夜の子供。

連れ立って、延々と、粛々と、しらじらと、お乳飲むのは何の為やら誰の為やら、張った乳房は痛くって、光燦々、昔話の笛すすり泣き、訳を尋ねれば裂けた傷跡、十三の、不信の宵は寒々と、空など見たくないと言いまして、月夜の、
月夜の軒下。

詮方ない理由がありまして、木の葉一枚の捨て状つけて、牛の子供差し上げますドンと持ってけぇ、切るなと煮るなと勝手だと、思うだけなら罪でも何でもありますまいに、黙って連れて行くとは、風の、自分だって育てられない風の、月夜の、
月夜の錯乱。


詩集
2025/06/30発行
四六判

2,750円(税込)