作品詳細

喪服

喪服

原章二

きみはどこにでもいる

「妻が亡くなり、火葬場へいくために喪服を探していたら、急に詩が出てきた。」(あとがきより)
この世とあの世に境はあるのだろうか。この想いは、届いているだろうか。
どこにでもいるきみへ、止め処なく溢れる言葉。

さあ今日は思い切り泣け/爽やかな天気のもとで/ピアノソナタを聴きながら/洗濯物を干しながら/鳥の啼き声を聞きながら/思い切り泣け/世界はいまデタラメで/とんでもない魑魅魍魎(ちみもうりょう)が/我が物顔に跋扈(ばっこ)している/放っておけ/かれらにはかれらの自壊の道を歩ましめよ/それよりもどうだ/この静けさのなかに溶け入って/一体となって/しかも粒選りの音の世界/ぼくが朝早くからめずらしく机に向かうと/きみの働く軽やかな音が聞こえてきた/テラスで洗濯物を干している/さあ出て行ってきみを手伝え
そんな必要はまったくないが/ぼくはきみの動く姿が好きなのだ/その幻影が/いま消し飛んだ/今日はもう/思い切り泣け/このまぼろしのように/すべてはみな消えるのか/魑魅魍魎はとうぜん消えるが
きみとの輝かしい日常も/跡を残さずに消えるのか/音楽も/庭の光も/二十八種まで数えた鳥の声も/みんなきみのいたときのまま/家のなかも前のまま/まだ百八日しか経たないのに/ちょっと荒れ放題ではあるけれど/気をつけて整頓してはいるけれど/きみのように綺麗にならない/でもほとんどきみのいたときのまま/それなのに/きみとの生活はすべて消えるのか/洗濯物が揺れている/丁寧に干さないと ほら/風がつよく吹いたら落ちてしまうわ/きみの丁寧な指先を/ぼくは讃えてじっと見る/さあ今日は/思い切り泣け(「思い切り泣け」)

詩集
2017/08/08発行
四六判 並製カバー付

2,160円(税込)