作品詳細

Lontano

Lontano

榎本櫻湖

土星のつめたい大気を游泳する幻覚にとらわれている

彷徨える少女の軌跡はどこにしるされるのだろうか。頁も記されず、タイトルも無くアヴィオンの香りの中を文字は綴られる。遠く、かすかな谺のように。
榎本櫻湖の小説を読んでみたいものだ。その第一歩で有ることを密かに確信している。



  赤くも黒くもない
  透明な首



  それにしても
  突然、目が覚めるようなできごとが
  ある啓示として顕われたとき
  酩酊することを厭う
  だが、そのかわりにオカルトを
  好むものだとは想像してもいなかった
  湖面をすべる陰謀論や
  弱音器つきの心霊現象も
  薄くひらたい
  虫たちの呼気を乱反射する円窓に
  映り込んだ休憩を
  まちわびる
  固形のメガロパについて
  紅茶を飲む女
  彼らの声が誘きよせられている録音物
  無頭のスフィンクスの耳の裏がわ
  催奇性のある流体
  サッフォーは
  黥のある
  死刑執行人の恋人



  土星のつめたい大気を游泳する幻覚にとらわれている



  グワカマーヨがくわえた真珠
  または艶めく欺瞞か

詩集
2018/09/30発行
B6判 並製・小口折

1,320円(税込)