作品詳細

いのちゆいのちへ

いのちゆいのちへ

遠藤滋

寝たきり歌人、今を生く、ただいまを生く。

仮死状態で生まれ、脳性麻痺と診断される。養護学校から大学へ。やがて母校の養護学校の教師となり、現在は「遠藤滋&介助者グループ(えんとこ)」の場で一人暮らしをしている。介助者のネットワークは35年間で2000人を超えた。
2002年より短歌を始める。
2019年ドキュメンタリー映画『えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤滋』(伊勢真一監督)は毎日映画コンクールドキュメンタリー部門グランプリ、文化庁文化記録映画優秀賞を受賞した。




海中に入れば不思議や出でざりし右足前に軽く運べり

遠慮がちにカーテンを閉め世話するを声を掛くれば話弾めり

わがいのちあまさず活かすその姿世人に見えぬ世界なるべし

地獄絵もかくはあらざれ生と死と入り混りたるその光景は

鉛筆の芯を折りつつ手にて字を書かさむとせし母の厳しさ

ものを言ふその引きつれる表情を真似さるること心に痛し

君なくて何ぞこの身のあるべきや一途に思ふわが心かな

以後われを障害者とは括るまじ受くる差別は重くあれども

群青の空残しつつ明け初めて黒き海よりいま陽は昇る

この痛みこの苦しみをいかにせむわが肋骨の裂くるがごとき

ふたつなきいのちを生かし生かしあふ世界つくらむわれらが手にて






2022年10月4日発売の朝日新聞(朝刊)の文化面にて山本悠理さんによる遠藤滋さんの紹介が掲載されました。

歌集
2021/12/10発行
A5判変形 並製 カバー 帯 栞

1,980円(税込)