作品詳細

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宿久理花子

宿久理花子が実は猫なのだ、と言われても不思議な話ではない。と思えるくらい自在な視線なのである。

宿久はもちろん正真正銘の人間であるが、その生き方の根本にあるものは命としての平等性にある。
その視線は、いわゆる概念、観念に囚われていない。
自由、自在な感性によって言葉を紡いでゆく。



人騒がせな



いちばん
後ろの
誰でも似合う制服がすごいのか
似合う顔をした
みんながすごいのか

替え
自由にしていいと言われた
最後だから
みんなで話し合って
決めなさい
春には
新たな十七歳で膨らむ教室だ
南の
渡り廊下のすぐ横の
チャイムが鳴ると
誰とも帰らない
わたしは
年間パスポートで
市立動物園へ
三畳紀へ

水面(みなも)へ
目と鼻を浮かべて
絶滅しなかった
理由はわからないという
きっとこんなつもりじゃなかった
ここまで長引かせる気は
描(か)き足される
系統樹

いびつな
進化を蹴散らして
合っているようないないような目は
なるほど親族に見た覚えがある
わたしもいずれ鰐になる
そういう家系なのだ
最近眠くてたまらないのは
そろそろ膜を張り
からだをつくり替える時期なのだろう
こわい?
たまごで眠るのは
殻を破って
もう一度息を吸うのは
制服を脱ぐのは?

お騒がせしました
近所にしょっちゅう脱走する犬がいて
飼い主が詫びてまわり
ぶーたれた顔だし
誰にもしっぽを振らないし
通りかかると吠えるけど
わたしは味方だ
座りたい席がある



春めく


洗い髪のまますり寄った
むぼうびな春はいい匂いがした
おろしたての風
の濃度
まなじり
明るくなったねと言いあう午後五時が
馴染んでくる
肌へ
新月へ
Yには三度目のことだ
ここにはさまざまな気候
特性がありここに
住む
と決めてから
YにはYの惑星が
息が
配分があったのだと気づき
たとえば二日続けて雨が降っても
土を炒ったり禁欲したりは
ここではしないのだった
理解しがたいことばかり起きた
無理はいけない
ずっと煩わしく思っていた母の教えが
今になってYを助けた
Yは無理に応じるのをやめた
出生を濁さず
ここで暮らすには
自分のからだと心のたくましさを信じて
ビニミを煮込むみたいに
時間を注ぐのだ
これは協調ではない
目がくもったみたいになると
Yは口に出した
口にして
伝説の生きものや
暗唱させられた誓いの言葉が
加護が
まだかよっていることを確かめた
不吉な夢を見た日は
誰にも会わず
自分のイニシャルを紙に書いて燃やすことを
これは協調ではない

縫合される
Yは
痕にならないように
ほそい針と糸が使われていて
眠っても醒めてもいない
ただ
先週のドラマを録画しておくべきだったとか
冷蔵庫の小松菜はもうだめだろうとか
未練がある
あっさり
Yは認めた
ここを失いたくなければそちらも失いたくない
なんなら何一つ失いたくない
もうこれ以上

隣りあう季節が順当に尽きていき

警報の出る
首都
ほつれた四月を黙らせて

詩集
2020/09/22発行
A5判変形 並製

1,760円(税込)