作品詳細

葡萄樹の方法

葡萄樹の方法

阿部弘一

葡萄樹が、より深い酩酊を求めて蔓枝をのばすように/結実の春を迎え、ふたたび冬の旅へ…

グラスに注いだ葡萄酒を片手に、私は、厚いカーテンを閉じた窓辺のソファに沈む。
私の〈問い〉は、〈問い〉そのものがひとつの〈解〉であり、また、その〈解〉がいつしかまた〈問い〉そのものに還っていく性質のものであるらしい。(「葡萄樹」より抜粋。)


阿部弘一の23年ぶり4作目の詩集となります。
御年91歳にして、第一詩集の発行より57年の月日が流れてもなお、「幾何学を習いはじめたばかりの中学生のように」、〈問〉と〈解〉を輪廻する詩人の、深い酩酊を誘う詩集です。


─略─
平成十四年(二〇〇二)四月、出羽国瀧の山の遠い風鳴りの中への、私の再度の旅。
谷間を望むことはできないが、風の底に聞こえてくるかすかな渓流のひびき、ようやく草の萌えはじめた山腹のゆるやかな丘に群生する〈おおやまざくら〉。それらの各々は、根際から異様に分岐し、数本の暗紫色の太い樹幹となって枝を四方に張り、地を覆う。あたかも積年の深い雪の重みの記憶を終生荷なうかのような樹形。そしていま、突然襲ってくる陽春の夥しい光の粒子。一瞬の植生の放心の吐息であるかのような、開花。花のさかり。丘の上の、いちめんの。
「櫻の常よりも薄紅の色濃き花」の「並み立てりける」この丘の澄み渡った春の一日を、通り過ぎる翳りのように見て行ってしまった誰かの真昼間の、天空の夢の内部。うち棄てられた絵巻のような。
─略─
櫻守は、どこにいるのだろう……。
(「瀧の山・考」より抜粋)



阿部弘一(あべ こういち)
1927年東京に生まれる。
詩誌『獏』の同人。

著書
詩集『野火』(1961年思潮社)
詩集『測量師』(1987年思潮社)
詩集『風景論』(1995年思潮社)第14回現代詩人賞
『阿部弘一詩集』現代詩文庫152(1998年思潮社)

訳書
フランシス・ポンジュ『物の味方』(1965年思潮社「現代の芸術双書」Ⅷ)
フランシス・ポンジュ『表現の炎』(1980年思潮社)

編・訳書
『フランシス・ポンジュ詩選』(1982年思潮社)

詩集
2018/07/20発行
A5版変形 上製カバー付

カバー銅版画:毛利武彦「孔雀」

2,160円(税込)