作品詳細

アンドレ・バザンの明るい窓

アンドレ・バザンの明るい窓

牧野楠葉

お行き、未亡人となったわたしの心臓
線路が赤黒く染めあがってきた

小説家でもある牧野楠葉の第一詩集。
色彩溢れる言葉が投影される紙上はスクリーンと化す。




あるひとの信仰


<わたしたちはここで座っていたのですね>
と彼女は笑い、歯茎を見せたが
ピクニックのレジャーシートが
黄色い風が吹いて
きみは倒れ
消えてしまった

優雅な声のためには
ある程度の犠牲を払わなければならない

悲しみの声のためには
あらゆる夜の二十二時半を設定しなければならない

痣のあるきみはそれだけで有頂天になる

毎日
歯のような手が
いまでは人々があくびをしたかのように……

ふたつの話
花園が崩壊する
大理石のある庭園が地響きによってカーブする

きみはそれを
泡のようだと言って馬鹿にするが
わたしは
それを聞いて
永遠だと思う

いつまでも続けばいい
すべてのものが嘲笑するとき、
海辺が天に上がる



日の翳り


ジョンのレコードプレイヤー
が
冷え冷えと夏のコテージで
やられてしまった
……

そうなると
することはひとつで

眼鏡を鳴らす
鳩時計が鳴る

再び日は長く

轟々と風がなり
まるでホラー映画の
パニックのような

ノーランのステレオが
冷え冷えと夏のコテージで
やられてしまった……

彼らの鼻腔から荒い息が漏れる
そう
わたしは(あなたは)
黒人たちの
ダンスと踊りの狂乱に
巻き込まれる運命にしかないのだ

セクシー
ミュージック
オン
ザ
ワールド

の渦に
ラファエルのキーボード
が
冷え冷えと夏のコテージで
やられてしまった
……

わたしは(あなたは)
肌が黄色く
だからこそ
彼らから
黄金を
せしめることが
できるのだ

ヒトミ、
きみのドレスに
シャンパン
が
こぼれて
いるよ。

歌えない!
とわたしが(あなたが)
叫ぶと

他の服がやってきて
すぐさま
濡れた服は
取り替えられた

ルーカスのアップルウォッチが
冷え冷えと夏のコテージで
やられてしまった……

レズニコフが
かつてわたしの友であった
あなたはもうどこにもいない
今は踊り続けているだけ

ヒトミ、
きみの友達が来たよ。

呼んでないわ

来たんだ、それでも

それは驚くべきことに
腹違いの妹で
わたしは半裸のまま
彼女を歓待した

セクシー
ミュージック
オン
ザ
ワールド

の渦

詩集
2022/10/31発行
四六判 並製

1,650円(税込)