作品詳細
夜への予告
奇妙にも美しい悪夢
…世界の人々がみなそれぞれ私は私だと思っている。人々は、それぞれ違う人間のように見せかけられた同一人物なのかもしれない。(「欠損」より)
まさしく「この本は、夢の世界の物質化だ」(「スノーノイズ」より)。
この詩人は潜在意識を操作し、思うように夢の中を彷徨うことができるのかもしれない。
混沌として支離滅裂な独白のようでいながら、冷静で端整な筆致。
藤井晴美の詩は、悪夢的な魅力に溢れ、禁断症状を伴う程の中毒性を持っている。
夜、隣家の階下。明るい光。レースのカーテン越しの女。胸部レントゲン写真に舞う黄色い妖精の影。
私はじっと待っていた。女が出てくるのを。女が窓辺に姿を現すのを。
自分が嘲笑っていた男が、実は自分だった。この人殺しがと思って見ていた男が、実は自分だった。そいつは男じゃなく女だった、それが実は自分自身だった。
自分のことだと思っていなかった男の話。まさか自殺するというのは俺のことだったのか。
この小さな指がまさか俺の指だったのか。これは子供の指じゃないか。とりとめもないことのようだが、そんなこともあると私は思う。
窓と窓に、廃液にかかる虹のような橋が架かっている。(「特製の女」より)
詩集
2015/10/30発行
四六版
並製