作品詳細

忘れる星
近日発売

忘れる星

あわやまり

小猿と石鹸とリンゴとティーカップが語り出す。
でも、絵空事じゃない。いつかきっと会える世界。
ページをめくるたびに心が澄んでくる。
――吉田篤弘(作家)

『記憶クッキー』の著者 18の物語

忘れてしまった記憶や、言えなかった気持ちが、
ここではちゃんと息をしている。

――

小猿とチョコレート


日曜日の夜
空いている電車で小猿に会う
しっぽが長くて
茶色と白の小猿

何か食べるもの、もってますか
と言うのでチョコレートをあげる
私の隣にお行儀よく座って
シャッシャッシャと
音をたてて食べている

食べ終えると
ごちそうさまでした
とおじぎをする

いえいえ、どういたしまして
チョコレート食べるんだ
と言うと
僕、苦いものが好みだから
日頃は喧嘩を主に食べてるんですけど
たまに甘いものも食べたくなるんです
と言う

喧嘩は苦いの
と聞くと
ええ、朝は濃い苦味があって
夜はアルコールも混じってきますね
と答える

たいへんだね

そうですね
みなさん、たいへんです
ほんとに、たいへんです
としみじみ言う

次は三軒茶屋という時になって
では、僕このへんで
チョコレートの中に
クッキーみたいのが入っていて
おいしかったです
と言ってつり革を見事に使い
隣の車両に移って行った

白い毛が一本シートについている
まだ少しチョコレートのにおいがした


詩集
2026/07/25発行
A5判変形 (148x175) 小口折り 帯

絵:工藤理恵子