作品詳細
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美しい動物園
「絵と文」による幻想譚
ようこそ、美しくも奇妙な動物園へ。
表紙絵から既に不可思議な胸騒ぎを覚える。本を開くとまず眼に入る岩のような遊び紙、続く扉も凹凸感がある。そして始まるこの「絵と文」による幻想譚。そこで気づく、読者は岩山や砂漠を越えて〈ユルムチ〉という奇妙な土地にやって来たのだと。文によって体験される絵の中の世界は荒涼で殺伐としており、現実とは違う法則性に満ち、危険であり、とびきり魅力的だ。
檻の前に立つとわたしはフェルトンに聞いた。そんなに腹が空いたのか。餌に限りがあるのにいったいどれだけ喰えばたりるのだ?
……おれは生命ある限り喰い尽くさなければならないとフェルトンは言った。それが自分の進むべき道だとも言った。
なぁあんた腹は空かないかい? 今度はフェルトンが聞く。おれには風に揺れる樹々のざわめきや鳥のさえずりでさえ「喰え」と言っているように聞こえる。これはお互いの生命にかかわることだから言うがおれはあんたをどうしても喰いたい。その出っ張った腹や脂ののった太い腕。さぞ旨かろう。この檻はいずれ壊れるに違いない。おれの身体はどんどん大きくなっていくからだ。(「美しい動物園」―[felton]より)
幻想譚
2015/05/11発行
四六
小口折
栞(20頁)付 装丁:常松靖史 組版:TUNE
1,650円(税込)