作品詳細

ういろう探し

ういろう探し

うるし山千尋

社会から詩であると気づかれ、薄められてしまう以前の、もっとも濃密な状態の詩が、ここにある。
                      ――杉本真維子

数秒


信号機の下
黄色い旗がゆれている
空の遠いところ
線が切れたように
飛行機雲は
ゆがんでゆく

ほんの数秒
ほんの数秒だった

理由も原因もなく
前ぶれもきっかけもなく
経験したことのない熱量と虚無が
同時にやってきて
そのまま
いなくなった

信号が青になり
車を進ませる
なにも変わったことはない
きのうも おとといも
きょうも あしたも
風景は
波紋のなかに澄んでいる

そのほんの数秒が 
いつかわたしの人生より長く感じられる日
そのまま
地球上から
いなくなってしまうような気がした


詩集
2026/06/01発行
四六判 上製 カバー 帯 栞

2,530円(税込)