作品詳細
透明ディライト
たったひとつの断片が強烈な印象をもたらす時、それは記憶ではなく、たったいま夢から覚めたような、世界の裂け目が現れる。
前作『青色とホープ』より5年ぶりとなる新詩集。
窓越しにゆらめく景色に浮かんでみえる人や物の影。
そこにいるのはもう一人の自分なのかもしれない。
もう会えない人のことをゆっくりと思い出すひと時。
ふと立ち止まってみる。
窓の向こうから
ほんとうは望んでもいないのに
悲しいことばかりをならべて
それがほんとうになっていくような顔で
煙草を呑む
休憩室の隅で
黒いソファのビニールが剝がれかけて
南向きの窓から
射し込む光
一時間後
案内所に立つ頃には
何事もない表情をして
とても信じられないが
「工業団地行きのバスはどれですか」
中年の男の問いに
笑顔で答える
目は遠く
交差点を行く人々を眺めた
幸せ
不幸せどちらかと問われたら
きっと幸せだったろう
引き寄せてしまうものを
すべて受け入れて
決して希望とは呼べない
窓越しに
通過する鳥影
タワービル
高架下のガードレールと
吸い殻
キンモクセイ
真昼の街を露わにする
光を見ていたかった
詩集
2024/10/04発行
四六判
カバー 帯付
1,870円(税込)