作品詳細
てばなし
記憶の水底からうまれる無数の輝きを
どこまでも澄んだ言葉に変えて
古屋朋 待望の第二詩集‼
「星のうまれる」
きしんでいる
手をひろげて
宙をつかむように
わやわやと指をうごかす
折れ曲がる部位が
くくく と
音を鳴らす ひびが入るような音
骨が鳴るほどのものではなく
骨と肉がすこしだけこすれるような
何度かそうやって指を泳がせていると
部屋の隅がきしみはじめた
音のした方に視線をうつす
耳をそばだてればいいだけなのに
何かいるのではないかと
音があることを確かめたくなる
あまりの形のなさに圧倒され
ないものをあるものとする
あるものをないものとする
あとすこしで眠れそうな夢のなかから
夜の雨音が膨張して
ふちどるまつげを意識する
窓があいていた
足の裏につめたい風
骨でも肉でもない
ぼくの身体にある通り道に
湿った酸素が吹き抜けていく
カーテンのすきまからみえたひとつ星の
点滅にあわせてまた音がする
指のあいだから 天井のどこかから
とぎれとぎれに聞こえる
かわいた音にあわせて
小さな星たちが
はじけては消え
上へ上へと
すいこまれていく
うまれたのはこの星で
星はうまれる ぼくらのなかで
著者プロフィール
古屋 朋(ふるや・とも)
一九九一年北京市生まれ、東京都育ち。
早稲田大学大学院文学研究科修了。
『ユリイカ』今月の作品掲載(「ひとつゆび」「とける海」)。
文芸同人『プラトンとプランクトン』参加
詩集『ひとつゆび』(書肆子午線・2020)
詩集
2022/09/11発行
四六判
並製 カバー 帯付
装幀:ゴトーヒナコ/帯文:峯澤典子