作品詳細
インカレポエトリ叢書 8
聖者の行進
「わたしもかつてはくらげだった」
プレゼント
遺言状って究極の自己満足だよね
と友人が言っていた
その場で何も言えなかったわたしは
夢で
三十年後のわたしに聞いてみた
ねえ
伝えられないもがきを伝えるって自己満足なの
三十年後のわたしは
そうねえ、わたし本当に死んでないから分からないわ
と柔らかく微笑んで
たぶん彼女は
と続ける
一度死んでないわね
朝目覚めて
庭の花に水をやる
疲れはてたわたしはよく
ああ花になりたい
などと甘えたことを思ってしまう
水と太陽と二酸化炭素だけで生きられるなんて!
嘘をつかないで枯れてゆくなんて!
生きるって、パワーだ
ものすごく
しんどくなるときもある
お腹が空くと無性に悲しくなるし
放っておいて!
と
かまって!
の気持ちがごちゃごちゃして
かさばる
感情なんて難しいもの
持って生まれてきたわたしたちってみな苦しい
昔
植物人間の本を読んだことがある
かわいそう
と思ったり、した
はずなのに
疲れはてたら植物になりたいなんて
わたしはとても
生きることに甘えている
そうねえ、あなたってとても
と三十年後のわたしは笑う
むやみやたらと地面に繋がっているような気がするわ
そうなのかしら
そうよ、花って一生そうなのよ
かわいそう、つらそう
だから、花は美しくなるしかなかったのかもね
花を愛するひとに悪いひとはいない
と母が教えてくれたことがある
花に添えられた
ありがとう
のメッセージカードを盗み読みしてしまうたび
仕事中なのにほろりとしてしまう
ひとは
つらくてもごはんを食べて
眠って
生きなくちゃいけないから
ひとにことばや花を贈る
それはとても美しい行為で
花が人生になかったら
と考えると
ちょっとぞっとする
明日も朝目覚めたら
去年母に贈った花に水をやろう
生きるってそんなに嫌いじゃないと
思えるかもしれない
詩集
2021/03/30発行
四六判
並製