作品詳細
輪郭のない時刻
現代美術家として多彩な受賞歴を持ち詩人としても活動する矢原繁長氏。本文と同紙でくるまれたごくシンプルな装丁は内容に対する絶対的な矜持といえるだろう。
OKINAWA
海底が炎症を起こす午後
有刺鉄線が空を傷つける
大きな瞳の少年がボールを打つ
日焼けの少年が滑り込む
帽子の上を戦闘機が横切る
ここには特別なルールがある
ホームランボールを取り戻すには
スタンプだらけの旅券が要る
鉄柵の向こう側で見知らぬ兵士が
灰色のジープを追走する
どこかの誰かをやっつけるために
少年達の歓声が上がる
夕暮れに試合は終わり勝者が生まれる
だが鉄柵の周辺に勝者はいない
勝者の代わりに恒星のような
ピカピカのバッジを手に入れよう
淡い秒針が有刺鉄線を突破する夜には
鎮痛剤を用意しておいてくれ
矢原繁長 プロフィール
詩集
2012/11/15発行
A5変
並製