作品詳細
零時のラッパをぶっ放せ
永遠なんて ぽしゃるがいい
無秩序で混沌に満ちた殴り書きに見えるが、実に強烈な知性を感じさせる。自分が誰であるかを捜す世界とは、これほどまでにエネルギーを炸裂させるものだろうか。言葉は静けさから爆音へ、そして陶酔の世界へと導かれるのは読者である。
これは増田秀哉の第一詩集だ。
レールよ 切り裂いてゆけ
上手く剪定された詩は滅びろ
草臥れた街路樹は手術台に載せられた
病人の舌のように黒い医者の虚像に向かって
キリリと尖ってはふやけて
ガードレールの白い冷却がそれを支える
もつ焼きの茶色く濁った売春婦の乳首などは
実に痙攣的じゃないか、ぱちんこぱちんこ
ウネル トランジスタ・ラジオ
タクシーの運ちゃんから運ちゃんへと
伝播する違法の電磁波が急ブレーキによる
タイヤの摩擦の焦げた匂いと混線し
けばけばしい看板にぶち当たり
光、光、光を誑かす雌蛇の幻影は
影と姦通する夜の散歩者の
股下の三角形の中でいつまでも
踊りつづける 通過しますよ
ピスタチオみたいな小粒の心臓が
痩せた生活の脇腹のピアノを繊細に打ち鳴らす
時をハクハクハクと刻んでゆけ
音楽がナル! 音楽はキライダ!
淡々とした水の味気ないエレキギターが
そのシャバシャバの不埒な鼓動で
萎みきった亀頭を再度、刻々と
膨らし続ける一方で、よし 俺は
寝転んで泳いで さっさと
沢庵色の夜明けを執拗に
バリボリと噛み砕くか(「惑星軌道逸脱」より抜粋)
詩集
2017/04/30発行
四六判変形
並製
表紙画・挿画:著者