作品詳細
みをつくし
ぼくたちは もう一度 生まれる
古典研究家でもある著者の第一詩集。
あいしてるよ、あいしてるよ、という呼びかけ(独白?)で始まる本詩集は、わたしたちに時に鋭い言葉を投げつける。そして時に甘い情景に導く。織り込まれる古語とのコントラストも読む快感を刺激してくれるだろう。
古きも新しきも、日本語の魅力を知り尽くした、まさに現代の詩人が登場した。
少女はいつまでも、そこに立っていた。名前を知らぬ少女であった。もしかすると、名前というものを与えられていない少女であったのかもしれない。赤い自転車に乗ってどこかへ行ってしまった。少女の眼は美しいビー玉のような目であった。
むかし、男ありけり。梅の花をめでけり。春といふをりに、世界をめでけり。けしうはあらぬ女を思ひ、歌詠みけり。
ビー玉のごとき目玉をくりぬきてその構造がゆかしかりけり
祖母は私に漢字を教えてくれた。「けいけん」には「経験」もあれば「敬虔」もあるし「慶顕」もあるのだよ、と。そこに、私は宇宙の広がりを見たのであった。そっと、指で少女の背中に、私は字を書いた。
「なんて書いたかわかる?」
「わかんないわよ」
「もう一回だけね」
「ああ、もう、くすぐったい」
「どう?」
「んー、木、キ、き、木…隣がわかんない」
「じゃあ、ひんと! あのときのかおりだよ」
(「あさぼらけ」より)
詩集
2017/07/01発行
四六判
並製