作品詳細

唇に磁石
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唇に磁石

渡辺八畳

渡辺は「そのものへと、成って」いくことを、
言葉で彫刻するかのように、
独特の大胆さと繊細さで、
彫刻の刀ならぬ筆を鋭く振るっている。
―― 和合亮一

皿が溶ける日


頭上にある点滅灯が
さして主張せずに独立を果たすから
今日はその下を無毒の鉛が流れていく
正午前の日差しはいい感じに焼いてきて
一歩
二歩
夜には雨が降ることをまだ知らない

少し前まで全世界は静止していたのに
それを全く感じさせない正常な日だ
見ない見なーい 見ない
腹を擦って道を作る

陶器が土に戻らぬまま溶けて
上へ上へと垂れ流れて
絶妙な硬さを視覚から感じさせて
最後のひと液は
量が足りなくてかすれ残った
途端全てが緋色に変わり重力が増す


詩集
2025/10/03発行
A5判 並製 帯付

2,200円(税込)