作品詳細
交差点の秘密
交差点の谷が/静止し/発火する
詩人は日々の交差点に佇んでいる。
そのまなざしは、生と死の光景をすくいとる。
トンネル
庚申塔から集落へ折れ
トラス橋を渡ると
桜だけの小学校
ツタとシダが入り口を取り巻いているから
人を
たばかるものだと
トンネルを掘った男の孫が
入学式で吹聴する
媼が振り返るから
人が迷い込み
明かりがないから
死があり
いつも夜だから
恒星があり
冷たくて丁寧な苔も生しているし
水が漏れ出るから
清純と
混乱とが
ホルンとなった
外耳に反響する
迷い込んだ私は
歩くだけでもう
騙されている
階段
石の手摺をたぐり
深海の闇を踏む
赤くくすむ大王烏賊が
踊り場に潜む
繰り返す右と左の足
曲げること伸ばすこと
骨髄から
重力を抜くコンプレッサ
細胞から抜ける
土の記憶
長く下るまに
冷徹に被圧された
水
酸素はとうに抜け上がり
脳から抜けていく
光
頭上に満ちる
海月の光
ここは深海
香らない夜の林で
非常灯色した
大王烏賊が
非常口色した
海月を襲う
深海の闇を踏む
夜空へ
踏み出す右つま先
膝がカクリと折れる
詩集
2022/11/25発行
A5判変形(135x200)
並製 カバー
1,650円(税込)