作品詳細

風とカマキリ

風とカマキリ

萌沢呂美

言葉の展覧会へようこそ

著者は詩人藤富保男のもとで長年詩を学んで来た。
描かれる情景は日々のひと時を豊かにしてくれる。
あなたは町の中で山羊に出会うことはありますか?
あなたは海の上喫茶店へ出かけたことはありますか?
ようこそ『風とカマキリ』へ。



風と共に


彼は歩いていた
氷の上を滑るように
時々 立ち止まり
たまに ペタンと座り込み
また歩き出す
何人もが同じ方向に進み
すれ違う人はいない
空が動く
突然
彼は後ろ向きのまま
風に吸い込まれた



まぼろし村


なめらかな木肌の幹が
鄙びた田舎道に並ぶ
枝は四方八方に長く伸び
その枝には細く葉が絡む
先端にうす茶がかった桃色の塊
生垣に囲まれた家々
その裏庭にも塊の花が揺れる
近くで見ると
塊はかき氷のようにフワフワ
触れると崩れそう
ホロホロと花
満開

夏 もも色に染まる村



節穴


目が覚めると
部屋の中に 光の槍が数本
刺さっていた
小さな手で
掴もうとしたが 掴めない
目が慣れると
こまかい塵が 踊っていた
木の雨戸を開ける

朝が来た

詩集
2023/11/20発行
A5判変形 (140x190) 上製本

2,200円(税込)