作品詳細

歌集 高遠

歌集 高遠

市川八重子

生き抜いた言葉

敗戦後、今はもう地図にない国「満州」から引き揚げて来た折の体験を
現代のこういう不安な時世だからこそと、一冊にまとめました。――著者

歌集『高遠』の中心をなす「満州」は、この地から引き揚げてきた少女期の、過酷な体験の記憶を詠ったものである。それは作者の生の原点として高遠での日々を支え、詠う力となってきた。そのまなざしは暖かくやさしい。しかし同時に、われわれは平和とは何かという今日的な問題をしずかに問われてもいるだろう。―中西洋子


湿原を駆けもどりゆく母親が捨てたる吾子の亡骸求めて

自決せり。佳木斯の二千三百余名、方正ロシア軍捕虜収容所にて

二千体焼きし満州の湿原に姫百合の朱わが目を射ぬく

八歳のわれは身体に土を塗り髪をおろして暴徒に備ふ

あかつきの空に向かひてこぶし咲く木の下をゆくわれを照らして

歌集
2018/03/27発行
A5判 上製 カバー付き

2,530円(税込)