作品詳細
花下一睡
〈 詩 〉の始原へ
終わらない夢幻劇
「はぎ」
先ごろ思いもかけぬ幸いにて宮城野に参りました
あわわあわわと萩を分け露に濡れつつ歩みました
歩めども歩めども萩の花萩の露萩の花萩の露です
薄闇にしゃがむと西行法師の歌が聞こえてきます
あはれ いかに
草葉の露のこぼるらむ
秋風立ちぬ宮城野の原
するとほんとうに風が吹いてきましたいちめんに
むすうの露がむすうの萩の花からこぼれています
あわわあわわと花を分け露に濡れつつ歩みました
月が昇りました銀の世界で馬鹿になってしまった
美しいお方のしゃれこうべがいまも転がっていて
萩の露を舌のない口をあけてのんでいるでしょう
むかし郊外に
住んでいた頃
休日の夕方には
妻とよく散歩に出た
道ばたに萩を見つけ
これが萩だと教え
顔を近づけ
うす紫の小さな花を
暗くなるまで見ていた
何十年も過ぎてしまった病み衰え何もかも失って
白い壁の部屋で白い天井をただぼんやり見ている
詩集
2024/04/01発行
A5変形 149x204mm
カバー 帯付
2,750円(税込)