作品詳細

いつでも二人

いつでも二人

杉浦加代子

両親との暖かく豊かな日々がここに在る

本歌集の中心をなすのは、両親の長期にわたる介護生活から生まれた作品である。そして、その表現はきわめて素朴に素直に歌われている。歌の身上は実にここにあると言っても過言ではない。(中西洋子)


 「疲れたろ、早く休め」と我に言ひし終の言葉は数時間前

 父母と飲みし神谷バーの電気ブラン百二十円なり昭和五十年代

 綿入れにふくるる母の背を入れて仲店通りの賑はひを撮る

 はげしさを増し来る山の夜の雨疲れて母はいつしかねむる

 母ありてわれらと旅に出づること母より誰よりわれはうれしく

 入院の日より日記のとだえたる母のノートを辞書と並べ置く

 ひたぶるに耐へたる姿いたいたし窓辺にゆきて涙をぬぐふ

 手を握り頬よせあひて別れ来と思ひ出して涙する母

 母の肩かるくたたきて十五夜の月の出づるを指さし示す

 車椅子になじめる母と押す我といづこにもゆくいつでも二人

 母が眠る夜更けをひとり出がらしの熱き番茶をすすりてゐたり

 無意識に母は立たむと倒れたり左右のてのひら開きたるまま

 歌成らずみちのくの夜しんしんと更けゆくばかり窓辺に冷えて

 雪空に花を閉ざしてどの花も人目にたたず「思いのまま」も

 藤棚をあふるる蔓がゆく先を求めて宙にさまよひいづる

歌集
2020/10/01発行
A5判 上製本帯付き

2,750円(税込)