作品詳細

池袋モンパルナス館
近日発売

池袋モンパルナス館

近藤洋太

私は学生時代から夢日記を断続的につけてきた。本書の前半は、夢あるいは夢に類いするものから触発を受けたもの、あるいはそれを再構成した作品。後半は現実の生活に拠った作品を配した。晩節を迎えて、なお私にとっては、詩は精神を浄化するために必要なのだ。(「あとがき」より)

池袋モンパルナス館


池袋駅西口を出て
右に曲がって交番のさき エビス通りを進み
トキワ通りを左に入って……
池袋モンパルナス館というホールがある
そこでは真夜中すぎにショーがはじまる
わたしは時々 妻が寝静まったあと
家を抜け出し タクシーで行く

演し物はあるときはサーカス
目隠しをしたままの空中ブランコ
球体の内側を三台のオートバイが爆走する
またあるときはオールディーズのショー
死んだはずの萩原健一が熱唱する
「大阪で生まれた女」や「ラストダンスは私に」
子供歌舞伎もあるよ
先夜の演し物は「勧進帳」
見得を切る女の子の武蔵坊弁慶

観客は老若男女こもごも
知り合った彼らはどこか普通とすこしちがう
この世界は病んでいるという陰謀論者の元警察官
大統領制を主張する引きこもりの青年
詐欺罪で捕まって執行猶予の身の不動産屋
投資に明け暮れるバーの雇われママ

ショーが終わって
酒を飲み肴をつつきながら
彼らと語り合い くつろぐ愉快なひととき
けれども夜明けが近づくと ひとりまたひとり
ふっと灯が消えるようにいなくなるんだ
気がつくとわたしは
よどんだ池袋の朝にたたずんでいる


詩集
2026/08/15発行
A5判 並製 カバー 帯付