作品詳細
インカレポエトリ叢書 9
洞
「滞ることは止まることではなく
流れることが進むことではない」
濡れた石
例えば、濡れた石がそこにあり
日々は流れていくとする
石には小さな血が流れているが
行き交う人には届かない
声は出ず
動けもせず
目を瞑る
例えば、濡れたお前がここにあり
日々が進んでいくとする
お前には人並みに血が流れているが
目の前の誰もが気づかない
声も出さず
動きもせず
夢も見ず
例えば、濡れた私がそこにいて
日々を反復するとする
私には大きな血が流れているが
そこにいるだけ、気づかない
たまに腕を持ち上げてみると
ひとりがちらっと振り返る
私は物足りず
大声をはるが
誰にもそれは届かない
濡れた私は知らぬ間に
ある日石になっていた
それには小さな血が流れているが
行き交う人には届かない
声は出ず
動けもせぬが
夢は見る
詩集
2021/04/30発行
四六判
並製