作品詳細

緋のうつわ

緋のうつわ

篠崎フクシ

かわたれに
まねかれる緋よ

あなたは
ひと世をいれる うつわとなる

【作品紹介】
渡海するかれうた


狭いうろを
むりにぬけようとするから
肩の皮膚はめくれ
いたみをしたがえては
水かきのない手で
泳ぐようにすすむ

渡海するかれうた
くにを鎖していたころの
異邦の船の名を
いまさらのように憶いだす
あだしのくにの神
とよばれた
偶像とはちがう
未知の黄金律に戦慄していたころ
galeotaのひびきに
風が帆をうちふるわせた

ぬけてみたところで
配水管が錆びていて
救われるような光景を
抱けるはずもないのだが
それでも、このうちに息づく
渡海するかれうたが
あたらしい櫂と風を
雲のように吐きだしてくれる

後悔ばかりの抜け殻よりも
だれかを恨みつづけるよりも
傷の手あてをおえたのならば

 さがしにゆこう

えなに秘めたる胎動を
ひかる円周の孤独なはてを


【著者プロフィール】
篠崎フクシ
第一詩集『ビューグルがなる』(2021年)〈第36回福田正夫賞、第72回H氏賞候補、第32回日本詩人クラブ新人賞候補〉
第二詩集『二月のトレランス』(2022年)

詩集
2024/07/20発行
四六判 並製 帯付

装丁・組版:川島雄太郎

2,200円(税込)