作品詳細
インカレポエトリ叢書 21
ひかりのような
第56回横浜詩人会賞受賞
イヤホンのなか地名を消してわたしが歩く平たいユートピア
刹那
このなかで
時代は
どこかを歩き
冷えた透明がまた立ち上り用法はどこかにかくれる
たしかに実在は
すわる飛沫を見透かして真ん中の身体が滑空するふところの
やぶさかでない
安眠の艶やか)
ちょっと根づきのないものを
なめとる
よぎる眼底をくり貫いて
レゾンデートルの対流/
かりそめの書物は乾き
それを徹底的に梳こうとするコミュニケーションと
あなたの抽象を予感し
足がすくわれる場所が増殖し、黒ずんでまみれる、
観念する(
この網膜の粘稠を摩る
これ以上また戻りやしないこと)
そんなコラージュを
意味は醜く揺らされ
俄か、その続き
そんな寓話のその先へ
変えよう
ただ憧れが
いつかしみついた清らかと
この破られた消失に
託されたとしても
それは贋作ではない
悠か──
沈黙/肌
壜のなかで眩暈がしたようにぽわぽわ取り残されて
やけにひとの顔は朝に爛れて在り処もない喚きを
すり抜けるように
歩かれた時間が
堰を切って
裏返しになる、この羽音
の窓からぴゃり(ぴゃり)
小鳥の仇おとが
拡大し/
奥のほうへまたしわがれていく過程
の肌は
漂流するほころびとなり
どれもとどめ置かれなかった
道を渡り
通りすぎていく名の
前線にまだ
グラデーションは残っているだろうか
無形の彼方が遠のき
すっかり爆ぜた流跡の
違和の刻みを押し込めたあたり一面の
よるの掬いがまた
どこかにとびさって
失踪する礫の指紋を波状になぞり
(重ね合わせる)
縞の線の/
岐路はいつしか層となって
白くはずみ
みちがえるほどの家が建っていた
次の日もまたあかるいころの空の止まり木
光線が立ち竦む表面をまたぬぐい
剥がされた新緑の手に
差しのべられて微笑む
かの国の砲撃の映像を背にして
それは規則正しく鳴動している
詩集
2023/07/20発行
四六判
並製 小口折