作品詳細

針魚
どうかこの世を 照らしてください
薄暗くとも まっとうな光で
もらすことなく あまねく すべてに
伝えようとする詩は好みじゃない。
事実が伝わったらフィクションの
よゆうもいつだつもなくなる気がして。
ところが事実を元にした
子どもたち、事件、人間
こんなに心を揺さぶられるのはなぜだろう。
声も、場所も、時間も、感情も
ありのまま
にぎりしめる詩人の声。
「言葉は君の離陸の力になるから
かならず なるから」
――伊藤比呂美
「まっとうな、よきものすべてを、
ことばにしたかのような」
若山さんの詩は、近くと遠くを同時に見ている。
すぐそばにいる人をあたたかく書きながら、
遠くの、世界はこうあるべきという姿を
鋭く追い求めている。
若山さんの詩は
とことんさびしげで、とことんはずかしげで、
それから
とことん信じられるものを持っている。
――松下育男
母を嚙む
母を殴ることは出来なかった
それで軽く足蹴にした
なぜか振り上げたコブシが今も痛む
焼けもシミもなかった幼い拳
しわが目立つ今でも痛む
君は母の頰を嚙んだそうな
特別支援高校卒業後の未来を
理詰めで言い立てられ
こちら側に言葉の弾(ルビ:たま)がない
ASDだから嚙んだのではなく
ゲバルトの手段がもとより君にはない
それでも 君は母に突進して
押し倒し
強く
強く
母の頰を嚙んだ
いっそ 食べてしまいたかったのかな
母を
愛するが故に
ねえ君
サン=テグジュペリが
夜間飛行した理由を
聞いたことがあるかい
人間の大地で
(砂漠だけどね)
奇跡的な出会いをした
美しい物語を
読んだことがあるかい
難しければ 読んであげるよ
ことばは 君の離陸の力になるから
かならず なるから
詩集
2026/04/28発行
148x172mm
並製 カバー 帯付
