作品詳細
どこだかわからない ここ
青と碧、生と死、そのあわいより出でるオキナワのツブヤキである
――星砂には、有孔虫だけでなく、大きな、大きな生命の潮流に洗われて造形された、珊瑚礁の多種多様な生き物たち、造礁珊瑚のかけら、太古の祖父母たち、戦災者の骨、などなど、さまざまな生類のなきがらにまとわれている。これらがオキナワの砂である。この詩集の舞台である琉球孤に生きて死ぬ生き物たちは、そのようにある。(あとがきより)
いのちの循環する珊瑚礁に囲まれた穏やかな海。オキナワの美しさ、それと相反するオキナワのいま。悲しみ、そして激しい怒り・・・湊禎佳の詩は美しさも、目をそらしたくなるような景色も、どちらとも割り切れない人間の皮肉さも、絶妙なコントラストで見せてくれる。
ラグーンを切り裂く桟橋にしれっと停泊 米艦のまばゆさ
原子力潜水艦 白亜の護岸に黒ぐろと映えてむっつりと浮かんで
F15戦闘機 提供水域の雲を掻き裂きフレアを発射
キューンと鳴いたら衝撃波 海底の御霊をさわがす過剰デシベル
ハリアー攻撃機 ぴかっとひかってきりもみ墜落 吃驚仰天(アキサミヨー)
対潜哨戒機 両翼に実弾を吊るして緊急着陸 驚愕(ドゥマン)ギユン
ハワイを追われたオスプレイは回転翼で砂塵を吹き上げ
珊瑚の海に墜落大破 これにはジュゴンも魂脱(タマシヌ)ギタン
大破はしても墜落ではないって 木っ端微塵の不時着大破?
人里避けた決死の着水 感謝せよと海兵隊が胸を張る
さすがオスプレイは国防のお買い得 今度はいつ墜ちるのか
高天を横切るステルス爆撃機 颯爽とつばさをかしげ
しゅんかん炎を炸裂させてぐぃーんと旋回 ひゅんと消えた
あれは死の白鳥 核を抱いて北のそらへ飛んで往かあ って
ざっと喧しくも頼もしい精鋭の鉄の悪魔たちである
これで近くて遠い国々を 地獄 に変える準備はおこたりなく
海鳥が群れ飛ぶ冥土のようなこの海岸で
アキヨー 娘のかざしたクロワッサンをねらって
カモメがわめいて急降下 それにおびえて娘が泣いた
ここはかつてのここではない どこだかわからない ここなのか
いや ここはなおも古代の波音がひびき 青の死生が香り立つ
連々とぼくたちを繋いできた神々の遊ビ庭(アシビナー)なのだ
そうだそうだとヤドカリが 自分の殻をこくんとさせて
あちらの砂地で こちらの磯間で こくんこくんとつぎつぎに
もぞもぞ脚をうごめかし 触覚目玉をきょろきょろさせた
(「珊瑚と寄せ波の詩(うた)」より)
詩集
2017/12/20発行
四六判変形
並製
題字:CHIHI
※著者署名本(在庫僅少)ご希望の方は備考欄にその旨ご記入ください。