作品詳細
断章の木
わたしは さ迷える魂達の文字を書き記す
自らの想い、思想、憂い、全てを思いのまま言葉にすることを希求した時、人は「詩人」となる。様々な要素から一つの物体が形作られるように、あらゆる体験・想像・思索の断片が集まり、この詩人を表現する一本の「断章の木」が形作られた。
夏草 と書いて 水の紋を描く/そこにあるのは 一夏の旅の記憶/掘り起こした草の根から水があぶれ出/螺旋状の時を越えて 故郷へと連れ戻す//忘れかけていたいくつもの駅をくぐり抜け/水底にひっそりと華やいでいる町にたどり着く//ゆっくりと舞い落ちる花びらに合わせて/置き去りにされたものたちをかき集める//一本道を通って町をめぐってゆく後から/水に潤んでゆく町並みにかつての日々を問う//あれから 遠いところまで来てしまったわたしは あなたに差し出す何物も持たず/もはや一人の旅人の影でしかないのか//水の輪をかいくぐり/水面に頭を出したそこは/夏の光に秋の色が濃く混じり始めて……//スイトピーの花の襞がたゆたう時の間を泳いでゆく
「夏紀行」
詩集
2014/08/01発行
A5
小口折り