作品詳細
蝶番
世界と世界のあわいをまなざす
「わたしは、いない」と書くとき、書く「わたし」がいる。
矛盾を誘い出すことばは論理を超えて肉体に近づく。
――詩人・谷内修三
わたしを喪失する。その傷跡から新たにわたしが芽吹く。
あらゆる境界に分け入り、あなたと混ざり合う。
永遠にも似た記憶の営み。
その息遣いに眩暈がした。
――詩人・文月悠光
【作品紹介】
遠雷
たいないを越えた水が
たいらな裏側では雨になる
夕立に駆けだしたまま
帰る家の灯りが みつからない
落とした百円玉の匂いがする
空が待つことを止めた
もう、わたしも諦められてしまったのだろう
誰も迎えの来ない夜に
用意された片方の足だけが
ぶら下がっている
この胸の波の果て
貝殻を捨てた場所
ここにいることを忘れてしまったら
誰からもみつからない
名付けられたものは
いつか消える
手放しで 音のない口笛を吹く
✿ 2024年10月6日に刊行された詩誌「妃」第26号にて水嶋きょうこさんによる書評が掲載されました。
詩集
2024/07/07発行
A5
並製 帯付
装幀・組版:亜久津歩
1,650円(税込)