作品詳細

病棟ラプソディ・バリバリ

病棟ラプソディ・バリバリ

冨田民人

「わたしは体中線に繋がれ電気で生かされている。」

闘病体験詩集。苦難の時を生きながらこれらの言葉は紡がれている。
自らの体験を通して描かれる光景はかの地で戦火の中にある病棟の様子と重なりながら我々の眼前に迫ってくる。



目覚めぬ恐怖


黄色くぬられた地図
○○一丁目とか二丁目とか
薄墨で書かれていて
通りに区切られた一画の路地を
私は右から左に歩いていた。
見知らぬ架空の街の平面図を
ゲームの駒のように歩いている自分を見ていた。
何も考えてはいなかった。
ここはどこかとも考えなかった。

ふと、耳にざわめきが起こった
ざわめきはよりクリアになり
それは人の話す声に聞こえた
それは医師や看護師の会話だった
私は会話の中身に耳をそばだてた。
手を挙げようと思った
足をばたつかせようとした
手に力を入れようとしても
足を動かそうとしても
どうしようもない
医師たちを見ようとしても瞼がひらかない。
触覚もない。

私は視覚だけ解凍された冷凍人間なのか。
身震いするのに身体は熱い。
私はこれから先、
こういう状態で、
聴覚だけで生きていかなければならないのか――


詩歌
2024/05/20発行
A5判 並製 カバー

1,760円(税込)