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青色とホープ

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青色とホープ

一方井亜稀

詩の言葉は再生する。そこに在る「不在」を。

詩の言葉によって再生される、都市の捨てられた風物、名指されぬ人びと、止まった時間。
煙草の吸い殻みたいに褪色して、それでも揺るぎなくそこに在る「不在」を、私たちは確かに目撃するだろう。


誰も知らない
駐車場の隅に置き去りにされたカートがあり
人類最後の日にもおそらくそれはあり続けるだろう
やがて土に還っていくひふを前に
逸脱を許さない骨だけが
垂直に空をさし
発語の手段は持たない
これが文字なのだとすれば
耳元で響く母語はなつかしかった
錆び付いていく鉄骨が
時の経過を告げる
二車線の道を挟んで
向かいのバス停は傾いてあり
歩道の落ち窪んだ辺り
かつてリュックを背負った男はいて
名も知らない
その男はどこへいったか
バスが来ても乗らず
時折ひとに話しかけては
何を考えているのかは分からなかった
発語される文字は文字の形のままに
たちまち空へ吸われていき
ビルの屋上
SOSのフラッグが揚がったこともあったその柵の辺り
今は赤い風船が浮かんでいる
それを手放した
幼子の
行方も知れず
薄闇に反応した
外灯がともる
駐車場に
草のなびく音だけが立ち
解析されない監視カメラ
回る

詩集
2019/11/01発行
四六判 (128x188) 並製 帯付き

帯文:小林坩堝

1,430円(税込)