作品詳細
インカレポエトリ叢書 32
あなたをかく
あなたのことを書こうとして わたしの指がとまる
保湿
あなたの肌は乾いている
鋭い冬の風に永く曝されても
柔らかい肉の体温を守るために
また重い鞄を抱えても
獣の尖った爪が食い込んでも
痛みに耐え、それらを抱き続けるために
あなたの唇は乾いている
唇の内側を知らせまいとして
外側の脱水された優しい言葉を語るために
また濡れた言葉を与えるために
善きことのために、遍く与えるために
無意識に唾液で湿された
あなたの唇は渇いている
何度でも潤そう
あたたかいわたしの部屋で
わたしの両の手であなたの背を
胸を 腹を 腰を
腕と脚を 手足の先を
首を 顔を もちろん唇を
衣で隠されるところ 顕になるところ
何度でも潤そう
あなたの内から溢れる水を
あなたの肌に守られていた水を
ただ広げてやるだけでよい
わたしの部屋はあなたのあってあたたかく
あなたの水で湿度が保たれる
それであなたはすでに潤う
しかしわたしはさらに油を擦りこもう
あなたはじきにこの部屋から出ねばならないから
あなたはすぐ冷たい風に当たらねばならないから
あなたはまた乾いた言葉を言わねばならないから
うるおいが少しでも保たれるよう
念入りに塗りこもう
甘く芳しい香油を
潤ったあなたは新生児のように去る
誰かにまた水を与えるために
次にあなたが訪れる時まで
乾いた肌と唇を携えて来る時まで
あなたの体温と湿度を
何度も追憶する
この部屋は保たれる
詩集
2026/01/25発行
四六版
並製
表紙作画:もざと

