作品詳細
あなたとわたしと無数の人々
上質なユーモアに結ばれる
ふと振り向けば私の心はあたたかく澄んだ水に
満たされてもう溢れそうになっているのだ ──川口晴美
私たちは親しく語り合った後のように「もうほんとうに恐ろしいことなどありはしない」と微笑みさえ浮かべて頷きたくなり、言葉を介して結ばれる無数の人々の一人となるのだ。 ──北爪満喜
梅雨空の下で
カレンダーをめくる
ブルーグレイの六月が去って
月が替わる
きょうから新しい月が始まる
視界を横切る新聞のモノクロの見出し
左目が少し痛むので同じ場所にとどまるしかない
呼吸はまだ六月のリズムのままだ
机の上には送られてきた書類が積み重なり
椅子の背にはカーディガンが不定形の波形をつくっている
写真は色褪せて遠景に退いても紫陽花はさらに青い
─中略─
蔓植物が伸びてゆく音が聞こえている
この年もまた半ばを過ぎて
折り返し地点にいるらしい
けれど折り返すことは難しいので
カレンダーはめくられて月日は去り
《為すべきことはあまりにも多く人生はあまりに短い*》
わたしは白い紙を折る
山折り 谷折り 折り返す
色々な折り紙のことはもう忘れているので
できあがるのは不恰好な鶴や四角い箱だけ
それでもまた折り返し
折り返して
戻ってくるこの場所
(「折り返す、七月」より抜粋)
詩集
2018/04/25発行
四六判
並製小口折