作品詳細
インカレポエトリ叢書 10
Lolita
存在という欠落を、愛することなどできませんでした
コペルニクス
おまえとわたしの孤独がけっして重ならないから
ぼくはあなたと手を取って回転し
えいえんを願うことができるのだと思う
あるいはきみの存在が否定されて
こくいっこく
砂塵に還る
そうしてわたしはあなたを祈る
睫毛の生え際をつつむまどろみを見つめ
ほそい葉のこすれる音を聞いた
とおくから近づいてくるものの正体をぼくは知っているけれど
それをきみにはなすことはないだろう
なすすべもない渇きに背を向けて
必要があるならばゆったりとしたきみの髪を抱えて逃げ出そう
痛みはかすかにまたたく
いつの日か近づくことができたなら
それはなんとおそろしくあたたかな夜明けであるか
抱きあい燃え落ちる一瞬の閃光
つかれはて爛熟した旅の終わりと
解き放たれた生命の胞子
ゆきたいところなど、ほかにはもう/
ぼくはただ沈黙していようと思う
六畳一間のちいさい宇宙でおこるひめごとを
すべてゆるして、塗り固めたガラスのうちに
じっと眺めていようと思う
透明は罰のいろ
ゆらめく美徳とエゴイズムの罪のいろ
ゆるすことは、刻み込むことだ
見紛うほどに処刑者は燦然と
頭上に浮かぶ冒瀆的なほほえみを照らしている
つみびとこぞりて
彼らの音楽が流刑地へと続く
目をふさぎ、耳を劈く
最後の明滅の、尽きる音を聞く
詩集
2021/05/31発行
四六版
小口折製本
表紙絵:海ヲキナ