七月堂通信
2016年08月の記事
七月堂通信特別編 大阪出張記3 ~二日目~
あらすじ:高塚謙太郎詩集『sound&color』黒崎立体詩集『tempo giusto』の刊行を祝した座談会を葉ね文庫にて開催し、それを元にフリーペーパーを製作することを企画した七月堂・岡島。万事滞りなく大阪に到着したかに見えた岡島だが、実は風邪だった。
前日の自分の調子が普段の三割だとすると、普段の六割程度には回復した。今日が今回の出張の目的であり、ここ数ヶ月の七月堂を支配していたまさに山場中の山場、高塚×黒崎@葉ね文庫の当日である。座談会の予定は15時。それまでに体力と気力の回復に努めなければならない。
というわけで四天王寺に行った。
結局観光か! という声が聞こえてきたが、そうではない。これは座談会の成功とひいては己の早期回復を一心に祈ろうという信心深さのあらわれである。決して旅行先のお寺の本尊ぐらいは確認したいという仏像ファンの性、利己的な欲求によるものではないことをおわかりいただきたい。
そして四天王寺の金堂は想像以上に良かった。本尊は救世観音菩薩。こんなに大きめなサイズの半跏像を見たのは始めてだ。像の来歴については後ほど調べたのだが、明治生まれの彫刻家・平櫛田中さんの作によるものだという。調べなければかなり古いものだと思っただろう。かなり良い具合の色合いに黒ずんでいたからだ。それもそのはず、お堂の中には途切れることのない参拝者、そのためにお坊さんがお経を唱えてお線香を焚き続けている。“よく拝まれている像は黒くなる”(お線香のため)の法則を実感した。
さてこの金堂、本尊だけでなく周囲をぐるりと囲む仏伝図の壁画も素晴らしい。質感的には砂っぽいザラザラとした印象の壁面、茶色を基調とした薄暗い堂内にほんのりとした灯りで見る釈迦の生涯、中央アジアの洞窟寺院にワープしたかのように錯覚する。上方を見やれば天窓から明かりが差し込み、自分を包んでいる影が本尊のものだということにハっとさせられる・・・
ん? 今日は何をしに来たんだ? 確実にこの七月堂通信を読んでくださっている方々が求めていない旅行記になりつつあるぞ。ここらで一気に軌道修正しよう。
え~、で四天王寺はとても良いお寺でした。古い仏像だけが仏像ではないと知らしめてくれました。これからも各地のお寺を訪ねて見聞を深めたいと思います。
で、折角なので天王寺駅の「あべのハルカス」展望階に行ったりしているうちに約束の時間が近づいてきた。急ぎ地下鉄谷町線で葉ね文庫さんのある中崎町に向かう。
道に迷ってしまい結果汗だくで見つけたサクラビル、この建物の一階に葉ね文庫さんはある。おお、ここが噂の葉ね文庫! 建物自体のアンティーク感と優しい手作り感の合わさっためっちゃ良い雰囲気のお店ではないですかっ! そして置いてありますよ、平積みで『sound&color』と『tempo giusto』が! 自社本がここまで積まれている事態はそうそう無いのでそれだけで感動であります。
いやいやどうもどうもこの度は、と店主の池上さんにご挨拶しているところへ今回の主役の一人高塚さんが登場。高塚さんに関して七月堂サイドでは『sound&color』そのもの以外に情報が欠如しており、若いのか? 年配なのか? どんな人なのか? と一切が謎だったためとても緊張をしていた。しかしそれもいらぬ心配だったのがお会いしてよ~くわかった。下手をしたら「やすらいはなや!」と“気”で消されるかもしれないと思っていのも杞憂だった。その直後に黒崎さんが来店、黒崎さんに関しては「気さくで可愛らしい」というキャッチ・フレーズがあるので皆さんご存知だと思う。
まあとにかく全員集合、これで座談会の始まり始まりだ。しかし自分のパワーは普段の六割で風邪ひきという体調、皆さんに申し訳ない・・・と思っていたら葉ね文庫の池上さんはマスク姿、高塚さんもたまに咳き込んでいる。黒崎さんは大丈夫そうだと思ったら「わたし緊張であんまり寝てなくて・・・」とのこと。みんな万全じゃなかったのでむしろ安心した。なにか間違っている気もするが安心したという感想は事実だ。
この座談会の内容はフリーペーパーにまとめてある通り。高塚さんが想像以上になんでも包み隠さず話してくださったことに感動した。達人感に加えどこか漂う曲者感、さすが高塚さんである。黒崎さんのハードな部分と可愛らしさの両面、何度読んでも思い出して笑ってしまう仕草・・・各人の魅力が詩集そのものとは違った側面から浮き彫りにされたのではないだろうか。個人的には正直、めちゃくちゃ楽しかった。仕事で行ったとか緊張したとか風邪ひいたとか一切忘れて楽しかった。それがフリーペーパーになっているというのも自分で作っておきながら不思議なのだが、このひとときを読んだ人にも楽しんでもらえたら嬉しい。
座談会の後はお買い物タイム。七月堂は池上さんにお願いしてオススメ本を仕入れさせていただいた。この本は「出張 葉ね文庫」として七月堂古書部の店頭に並んでいるので是非遊びに来ていただきたい。
その後打ち上げとして近所の焼き鳥屋さんに行ったのだが、疲れと緊張から解放されたこととアルコールが手伝って、ひたすら自分一人で喋りまくった記憶しかない。あげく「オレは明石家さんまと誕生日同じ」とか東京モンが関西で迂闊に口に出したらボコボコにされても文句は言えないようなことも言った記憶があるが、旅の恥は掻き捨てである。高塚さんに「やすらいはなや!」もされなかったし、まあ、ほんとみなさん優しくて素敵な方達だ。
最終的に荷物を取りにもう一度葉ね文庫さんに戻った。「お時間の許す限り」と言って下さった池上さん、いっそ七月堂の子じゃなくてここんちの子になりたい! とわいはもう泣きださんばかりやった。実際サクラビルではテナントを募集しており、流行らない探偵事務所を開いて高塚さんと池上さんの知恵を借りながら事件を解決する、そういう探偵になろうかと思ったほどだ。(ちなみに今は酔っていない。)
ほろ酔いで道もわからず歩いた帰り道、ひっそりとした中崎町から梅田駅・大阪駅界隈の喧噪が近づいてくる。悪夢に始まった出張だったが、今はなんだかとても良い気分だ。ふわふわと気持ちよく歩いていたら飲食店から血まみれの人が肩をだかれて運び出されていた。こんな気分の時こそ気をつけなければいけない、そう肝に銘じる大阪の夜だった。
とにかく七月堂の大阪出張は大成功。明日は帰り際に京都に寄るので、次回は「七月堂の(ちょこっと)京都出張記」をお届けしよう。
続く
座談会後のお買い物タイム
No.0052 2016年08月29日 O
七月堂通信特別編 大阪出張記2 ~一日目~
2016年7月16日(土)。翌日の座談会をひかえ、わたくしこと七月堂の岡島は一足先に大阪に到着した。
太陽の塔
そう、大阪と言ったらやっぱりこれだよね!
っておいおい、ただの観光じゃねーかと思ったアナタにはこんな格言をお教えしたい。
「出張だろうがなんだろうが、旅は出たもん勝ち」
そもそも、翌日に大仕事をひかえ本当は心臓が口から出んばかりの状態なのだから、これは緊張をほぐすための一種の治療みたいなものなのだ。そうに違いない。そして「営業」という二文字に押し潰されないようになるべく大きな書店などには近づかないようにしようと心に決めた自分はまことに潔い男だとゆくゆくは時代が変わったら思ってもらえるんじゃないでしょうか。
さて! この万博記念公園! 来たかったのは太陽の塔のためだけじゃないんです! あの日本が世界に誇る(誇ってるはず)国立民族学博物館こと“みんぱく”にずっと前から来たかったんですよわたくしは!
とんでもねえという噂は聞いていたが、確かにこの“みんぱく”は正直どうかしてるとしか思えないてんこ盛りの博物館だった。
まず大雑把に説明すると、こちらは研究所と一体になった博物館で、その研究の成果を惜しげもなく展示している非常に太っ腹な施設だ。とにかく広い。日本から東回りに世界を一周しながら(最初がオセアニアなどの島々の文化、次にアメリカ大陸、最終的に日本に到る)、各地域の文化を知っていこうというコンセプトなのだが、わかりやすく言うと世界中のへんなものがとにかくたくさん置いてある場所だ。
もちろんそれらはへんなものとして作られたものではなくて、いたって真面目な民族の文化として作られた品々なのだが・・・ええい、とりあえず展示品で気になったもののを列記すると、
オセアニアの葬送儀礼に使う人形、モアイ複製、トーテムポール、ルーマニアの陽気な墓、アフリカのカフェテラス、ニャウとニャウ・ヨレンバ、ベドウィンのテント、インドの山車、インドの各種神像、インドネシアの穀倉、韓国の家・・・
等々、きりがない! 列記した全ての語尾に(!)を付けて差し上げたい気分だ。大体モアイ複製にしてもトーテムポールにしても山車にしてもデカイわ! そんなデカイもん室内に置きやがって! あと、なんで山車の柱部分がシヴァ神の顔なんだ! そのデザイン感覚はなんだ! そしてルーマニアの陽気な墓! 陽気であってもそんなもん持ってくるんじゃない! ニャウとニャウ・ヨレンバに関しては各自調べてくるように!
とんでもないという噂以上にとんでもない博物館だというのがおわかりいただけただろうか。博物館は好きでよく行くし、人よりへんなものを見てきているという自負があった自分も悔い改めざるを得ない。恐るべし“みんぱく”というか恐るべし人類。
しかし、こんな激しい品々の最後に日本コーナーを設置したら日本は大したことないってなっちゃうんじゃないの? と思ったところ、日本にも6メートルぐらいある天狗の山車とか各種仮面やなまはげのような方達がひしめいていた。これからは「日本もアフリカと大差ない説」をとなえていきたい。
なんて最高な博物館なんだ! しかし、この怒涛の展示にはさすがにふらふらしてきた。ふらふらするし、ゴホッゴホ・・・咳も出るし、なんだか外の暑さ以上に体が熱いようだ・・・
そう、もう隠しきれない、正直に告白しよう。
風邪ひいた。(しかも、結構しっかり)
徴候は三日ぐらい前からあった。ほぼ自分が言い出しっぺの出張であり、みなさん予定を合わせてくれて開催が決まっている座談会だし、それは行くしかないので今まで自分を含めみんなに隠してきたが、そうなのだ。わたしは風邪をひいたのです。
出張にかこつけて遊んでやるわい! と思って朝6時47分東京発の新幹線を予約した罰が出掛ける前から当たっていたというのか。結局自分の体調が悪いのか4時起きで眠いだけなのかもわからぬまま新幹線に揺られ、9時半前には新大阪に到着し、こんな時間じゃホテルにもチェックインできない。どうせぶっ倒れるなら“みんぱく”で、と思いやってきた。そんな“みんぱく”で子供だったら100%トラウマ級の品々のロイヤル・ストレート・フラッシュを喰らい、もう全く自分は何をしているのか、何をしに来たのか・・・まさにリアル悪夢である。リアルなのか悪夢なのかよくわからない言葉だが、一番しっくりくる表現はこれだ。
現実に戻るためにも時計を見るとちょうどお昼時だった。うう、もはやお腹が空いてるのかもわからないけれど、とにかく何か食べなければ本当にぶっ倒れるかもしれない。
“みんぱく”内にエスニックランチという看板が出ていたので迷わず入った。体調的にタイカレーとかはキツイが、フォーなら食べれそうだ。一応量も食ったほうがいいかもしれないので春巻きなんかもついているフォーのセットを注文した。しかし、そのフォーが自分が想像していた優しい感じの味ではなく、凄く本気度の高いスパイスの香りがして、ちょっと、ちょっと今はこういうの食えない・・・つーかこれ、スパイス? お香? みたいな味で、すいません正直今までこんな自分好みじゃない食べ物を食べたことがない、そんな食い物で玉砕したのだった。まわりの人は普通に食べていたので、本当に自分の味覚に合わなかったということなのだと思う。あと体調もあったのかもしれない。しかしその後お土産屋に置いてあったカリンバ(アフリカの親指ピアノ。演奏している姿をはたから見るとゲームボーイをやっているような楽器。)からフォーと同じ匂いがしたのは何でだろう? 是非また“みんぱく”を訪れて検証したい味でありました。
その後、フォーの余韻を残しつつ、風邪が悪化しどんどん鼻が効かなくなっていくという尋常ではない恐怖にさらされた大阪一日目でした。
さあ、明日は座談会本番! どうなる!? どうする!? 七月堂!
続く
No.0051 2016年08月22日 O
七月堂通信特別編 大阪出張記1 ~出張前夜~
昨年、奇跡的な沖縄出張を果たした七月堂だったが、まさか七月堂の出張記に続編が出来るとは夢にも思っていなかった。あの名作映画「ビバリーヒルズ・コップ」の続編、「ビバリーヒルズ・コップ2」のTVコマーシャルのうたい文句が「あの男が帰ってきた!」だったのだが、ほんと、自分の中ではそんな感じだ。(どんな感じかわからない方は上記名作アクション・コメディー映画をご覧下さい。)
しかも今回の出張はただの書店営業ではない、詩人の高塚謙太郎さんと黒崎立体さんの対談を、なんとあの詩歌関係者の間で話題の書店、葉ね文庫さんで開催しようというのだ。まさかまさかの展開でこんな企画が噴出し、実際それは行われ、(まあ結果は対談ではなく座談会になったが)フリーペーパーも製作されたわけだが、ここではその顛末を掻い摘んでご報告しようと思う。
そもそもの始まりは黒崎さんから詩集を作りたいのですが、というお問い合わせをいただいたことだ。そして(なんと!)その8日後に高塚さんから詩集の製作についてお問い合わせをいただいた。結果、秘密裏にではあるが高塚詩集『sound&color』と黒崎詩集『tempo giusto』の二詩集は同時期に編集作業を行うことになった。どちらもわたくし七月堂の岡島が担当させていただき、また進行している単行本を整理する棚の関係で二詩集を同じ引き出しにしまっていたこともあり、この二作はなんとなく双子のような関係に(自分の中では)なっていた。
これまた奇跡的にほぼ同日に校了した二詩集、それぞれ印刷は別の印刷所で行ったが、製本は同じ駒留製本さん、完成もほぼ同時だった。
そんな偶然のいきさつを七月堂によく顔を出して下さる黒崎さんにお話ししていた時のことだ。
「なんかフリーペーパーとかあると営業しやすいらしいっすよ」
などと最近営業は古書部・部長こと後藤聖子さんに一任して逃げた自分が口から出るに任せてお喋りし
「思いついた企画とかあったら連絡してくださいよ~」
なんてごく軽いノリで言っていたのだ。
黒崎さんがお帰りになった直後、あ、同時期に作ってたから高塚さんと対談とかしたらいいんじゃねーの? と思いつき、ネット上の対談なら文字も起こしやすいしいいかもな、と半ば本気になってきたのでその旨を両詩人にメールした。そこで高塚さんより衝撃的な文面が送られてきたのだ。
―可能なら面と向かって対談できればいいのですが、
黒崎さんは関東の方でしょうか?―
マジで? 思いつきに一発でOKが出て、しかも可能なら会って話そうというのか?
でもそれだと文字起こすのがめんどうかも・・・なんていう感想は微塵も口を出なかったことはご理解いただけると思う。高塚さんのメールで火がついた七月堂はすぐさま黒崎さんに連絡。結果、黒崎さんも一発OK、大阪にも行きたいという。そして・・・
―ぱっと思いついたのですが
もし大阪なら、葉ね文庫さんでの対談ってどうでしょう?―
と黒崎さん。おいおい、そんな簡単に話が進むとは思えないぞ。純喫茶みたいな場所で勝手に開催するしかないだろう、と思っていたのだが、どうやら高塚さんと葉ね文庫さんはわりとよく知っている方向の知り合いのようなので、ダメもと「葉ね文庫さんに聞いてほしいんですけど~」という連絡をしたところ、これもまたあっさり快諾をいただいてしまった。つまり・・・
高塚謙太郎×黒崎立体@葉ね文庫 開催決定!!!
なんだかとんとん拍子で奇跡的なコラボレーションが実現してしまい、本当に嬉しいが、しかしなんというか自分が言い出しっぺしておきながら本当に大丈夫なのだろうか? いろいろ心配だが、こうなったらやるしかないのでやります。まず何をやればいいのだろうか、とりあえずホテルの予約だろうか。
続く
これがその引き出し
No.0050 2016年08月16日 O