七月堂通信

2015年09月の記事

奈良旅行記

 夏休みを三日ほど前借りし奈良へ行ってきた。もはや出張でも何でもない、ただの観光である。それをここであえて紹介する必要も無いのだが、書き始めてしまったからしょうがない。まあ会社から休みをいただいていることもあり、少しは恩返しが出来たら・・・と無理矢理な理由をつけてみる。最近「七月堂通信」を私物化しているのではないか、と自分でも思うが、新刊を紹介するだけだと期間がどうしても空いてしまうので、つなぎのオマケの暇つぶしとして読んで頂ければ幸いだ。更新が滞っていたり何年か前の更新以来音沙汰の無いブログを発見してしまった時の複雑な心境、誰もが経験したことがあるだろう。端的に言うとあれが嫌なので書きます。

 奈良!おお奈良!あこがれの奈良!という気分で奈良を訪れる人がどの程度いるのだろうか。行った感じでは多くの観光客が京都のついでとして一日を奈良に当てているといった印象をうけた。しかし個人的なにわか仏像ブームに燃えている自分にとってはまさに奈良は憧れの場所として認知されていたのだ!ここ数ヶ月。
 京都・奈良という修学旅行の定番中の定番であるザ・観光名所に自分は行ったことがなかった。その理由は青春の大半をイギリスのミッションスクールで過ごしたから、ではなく中学の修学旅行が伊豆大島、そして高校が東北の白神山地に行くという非常に渋いチョイスだった為である。ちなみに中学の卒業遠足は「東京湾をクルージングしながらフランス料理のランチ」だった。まったく普通の公立校でだ。意味がわからない。しかしあらゆることに力を持っていた体育の古木先生は「いいっしょ!?」と甲板上でご満悦だったのであった。間違いなくあれは古木先生の差し金に違いない。
 何の話だったか・・・
 そう、とにかく、人並み以上にテンション高く奈良の地に降りたって真っ先の印象が「鹿、クッセー!」だとは夢にも思っていなかった。鹿、多すぎだ。そして鹿と戯れる外国人観光客達。そりゃあ確かに珍しい光景だろうが、祝!初奈良の自分にとってもその光景は珍しく、異国に来たのではと錯覚するぐらい大量の外国からのお客様とそれを接待する鹿達。まあ、あと端的に言うと鹿のウンコである。
 世界遺産興福寺・世界遺産東大寺・世界遺産春日大社の参道、ここらへんは人間よりも鹿が幅をきかせているので動物が苦手な方は注意すべきだと言える。特に東大寺の参道は鹿と観光客、鹿の落とし物の三つ巴をかわしながら進まないといけないので穏やかな心で参拝という雰囲気からは程遠いことをお伝えしておきたい。

 さて、その猛烈な参道を越えた先にあるのが猛烈な仁王像に見下ろされる南大門と猛烈な大仏殿に猛烈な大仏である。今まで数多の感想が述べられて述べられ尽くされているであろう大仏について新たな認識や見解を述べるようなことはできない。月並みな感想ながら仏像というよりはガンダムに近い、古代の超兵器の偉容を目の当たりにしているようだったと述べておこう。かつて大仏様が地球の軌道をまわり、眉間からレーザーを放ちながら宇宙人の侵略から地球を守っていたのだ。そしてその使命を終えた現在は奈良に安置されているのだ。と言われても信じるような、そういう偉容であった。

 犬も歩けば棒に当たるようにちょっと歩くとお寺があり、どんなお寺なのかなーなんて軽い気持ちで入るともの凄い仏像にばんばん出逢ってしまうのが奈良の凄いところである。とにかく神社仏閣の数が多い上になんちゃら殿に入るには別途参拝料いくら、なんて言われてしまうのでお金が飛ぶように無くなった。その金額以上の感動がまたばんばん現れるもんだからこれもたまらない。
 まさに奈良は仏像のテーマパーク、みほとけのワンダーランドなのである。

 感想を挙げていったらキリが無さ過ぎるので、タイムリーな話題だけ紹介しよう。

 世界遺産薬師寺の金堂には薬師三尊がいらっしゃる。薬師如来を中央に、日光菩薩・月光菩薩がそのわきを固めている・・・はずなのだが月光菩薩像はなんと写真の垂れ幕がかかっていた。なんのこっちゃねんと思ったところ、現在奈良国立博物館で開催中の開館120年記念特別展「白鳳―花開く仏教美術―」に参加のためお留守にされているというのだ。
 そう、そもそもその白鳳展に行くために奈良にやって来たのですよわたくしは!しかし薬師寺で三尊がそろい踏みの状況を見れなかったのは非常に残念・・・と思ったが翌日白鳳展の会場で月光菩薩像に対面しその感想は変わった。
 薬師寺で三尊そろい踏みの状況はいってみれば日常のお姿、セパレートされて特別な空間にいらっしゃる月光菩薩のお姿というのは超レアなのである。これは拝観後にボランティアガイドの方から伺った話なのだが、この白鳳展は今後開催不可能なレベルのどえらい苦労が山のようにあったそうだ。事実、この月光菩薩像、車で三十分かからないぐらいの薬師寺からお運びするのになんと二週間の期間を要したそうである。三十分を二週間!勿論それは梱包作業など諸々で必要だった時間だが、果たしてどれだけの予算がかかっているのか、それはまあとんでもないそうだ。
 薬師寺で見た月光菩薩像の相方である日光菩薩像は、その空間が影響してか不思議とそこまで大きさを感じなかった。しかしこの展覧会場で見る月光菩薩像の大きいこと!何せ3メートルを超える大きさである。そして光輪をお外しになったこれまた珍しい状態でいらっしゃるので、普段は見ることができない後ろ姿も拝ませていただけるのである。また単体でのお姿から不思議と薬師如来・日光菩薩との見えざる引力のようなものも感じることができる。
 その良さを下手くそな文章で記述するのは憚られるのでもうとにかく直接見に行ってください。結論、とにかく白鳳展に行くべし、である。9月23日まで開催中です。

 他にも奈良では飛鳥に行き、レンタサイクルで疾走して楽しんだ。飛鳥にも飛鳥寺や岡寺など素晴らしい仏像に出逢えるお寺があるのでとてもオススメだ。何よりめっちゃ空いていた。観光ピーク時でも奈良公園のような混雑は無いようなのでのびのびと自分の時間を過ごすことができるだろう。
 この飛鳥近辺はかつて栗山千明が出ていた旅番組で憧れていたのだが、当然ながら栗山千明はいなかった。上野の国立博物館でも思うことだが、上野に堀北真希がいたためしがない。是非次は栗山千明がいそうな時に行きたい。

No.0042 2015年09月08日 O