七月堂通信

2014年06月の記事

極私的「日本の詩祭2014」記

2014年6月15日晴れ。日本現代詩人会主催の「日本の詩祭2014」へ出かける。11時に明大前事務所に集合。といっても知念と岡島二人。『ひかりの途上で』を20冊にするか40冊にするかちょっと迷うが40冊にする。理由は一梱包が40冊! という答えに尽きる。
猫の写真の入った七月堂紹介スタンド、ポエケット用ポップ等をそのままもってゆく。紙袋に全て入るが、重いこと此の上ない。岡島が両手で抱えて持つ。
H氏賞授賞式が開催される飯田橋メトロポリタンエドモンドへ向かう。明大前から飯田橋まで約20分ぐらい。途中「日本の詩祭2014」のパンフレットを見せてホテルへの道を尋ねている人がいる。振り返って、持っているパンフレットをその人に振ると「あっ」と小さな声を立てたかのように私たちの方へ小走りにやってくる。
「何度か来ているのだが、人と一緒だったから……」と話しながら5分ぐらいで到着。
二階「悠久」の間は受付に並ぶ人でいっぱいだ。開催一時間前。
会員の方たちの名札がずらりと並んでいる。七月堂で印刷の同人誌の目次に名を連ねている方々の名前があちこちに見られる。
私たちは芳名帖に名を記すと来賓の花飾りを貰う。日本現代詩人会理事長の北畑さんが本を売る場所へ案内してくれる。

H氏賞と同時に現代詩人賞もあるのだが受賞者は甲田四郎さん。『いのちの籠』『すてむ』の責任者だ。奥さんが隣で甲田さんの詩集や同人誌を並べている。
会場へ来る前に奥さんはサッカーを見ていたそうだ。いわく「負けたのよ!」「えっ、ほんとですか」と私。しばしサッカーの話がはずむ。
その間も『ひかりの途上で』は来場者の手にとられている。詩祭特価1000円が良かったのかもしれない。封筒も領収書も持ってゆくのを忘れた。
ひかりの途上で』を買ってくださった方がいて、バックが小さくてうまく入らない。私があせってオロオロしていると、隣から甲田さんの奥さんが封筒を出してくれる。初対面なのになんてフレンドリーなのだろう!
吉田文憲さんが通る。「吉田さん、吉田さん」と声をかけると一瞬きょとんとして「あ、知念さん」と戻ってくる。「きれいにしているからわからなかった」と言われ、きれいに?という言葉を頭の中で繰り返してしまった。確かにその日は今年買ったおろし立ての紺色のかりゆしを着て化粧もしていた。

13時、北畑理事長の挨拶で始まる。
吉田文憲さんの『ひかりの途上で』についての解説がある。吉田さんの好きな行を読み上げる。この詩集はありふれた普通の言葉で比類なき行を生み出していると、時間オーバーぎみの熱い語りとなる。
詩集『ひかりの途上で』の選考過程を読みながら峯澤典子さんの言葉の端正さが頭をよぎってゆく。ユリイカの詩人として出発し、第一詩集『水版画』でも話題であったが、この詩集は多くの困難を乗り越えてゆく一人の人間の生きる姿として屹立している。
「生き様」とは言わせない姿、姿勢がこの詩集にはある。多感な少年少女たちに読ませたい詩集だと思う。
「みえないもの、きこえないものを自分の時間として蘇らせたい」という峯澤典子さんの言葉を心に受け止めながら、授賞式の時間を過ごした。
現代詩人賞の授賞式が始まり、最初に壇上に立ったのは選考委員長、梁瀬重雄さん。一緒にエドモンドホテルにたどり着いた人でした。
甲田四郎さんの受賞の挨拶はユーモアに満ち、和菓子職人として培った潔さが気持ち良い。詩集『送信』は「いきとしいけるもの」のしなやかな眼差しに満ちている。どんな艱難辛苦も受け入れ、飄々と歩んでゆく甲田四郎さんの姿がそこにある。
先達詩人の顕彰があり安藤元雄さんと白石かずこさんに敬意と記念品が送られる。

10分の休憩があり、この間に大半の『ひかりの途上で』が売れた。甲田さんの『送信』も4冊しか残っていない。凄い売れ行きと思ったのだが、奥さんの制止も聞かず「もう売れないよ」と甲田四郎さんは片付けてしまったという。
休憩が終わり、さとう宗幸さんの歌が始まる。甲田さんの奥さんはハンドバックも売り上げ用の財布も置いたまま聴きに行ってしまったらしい。さとう宗幸さんの歌が大好きとのこと。岡島は『送信』を買う人の応対をしている。1500円の詩集のおつりを奥さんの売り上げバックから出してお客さんに渡している。
私が授賞式で「詩はなんと新鮮な文学なのだろう」と感涙にむせている間に岡島と甲田さんの奥さんは友情を深めていたようだ。
植木雅俊さんの講演「お釈迦様も詩人であった」はインドでは大切なことは詩で伝えられているという話であるが、宗教の発祥は一人であっても伝えられてゆく過程で其々の宗教になってゆく、という限りなく続く宗教論はとても興味深い。

プログラムは終わり、人々がどっと会場から出てくる。本の売り場は人だかりとなり『ひかりの途上で』は完売した。手に入らなかった方が予約で購入。
ある詩人いわく「今年の受賞二作は画期的な二作ですよ。ふたつの詩集の制作費が合わせて100万円以下だからね」と。
『送信』は中山清さんのワニプロダクション。シンプルなカバーで並製本。
ひかりの途上で』はシンプルな装丁をする七月堂の中でも一、二を競うシンプル装丁の並製本だ。

今は亡き七月堂の木村栄治が酔った時の口癖は「文学における無冠の帝王は詩人にしかその資格は無い。詩人がこの世の賞を貰ったら詩人としての終わりだ」と。
確かにそうかもしれない。しかし、甲田四郎、峯澤典子はこの受賞を人生の一風景に過ぎないと思っているように感じる。そんな私はノー天気なのだろうか。木村が生きていたらきっとこの受賞で一晩中体を張ったバトルが続いていたと思う。甲田さん、峯澤さんをそっちのけにして。

岡島は軽くなった紙袋を片手に下げ、私は甲田さんからいただいた花を抱えてメトロポリタンエドモンドを後にした。


日本の詩祭2014 七月堂ブース

No.0021 2014年06月24日 知念明子

『せんのえほん』が完成!

 七月堂としては珍しいタイプの本が完成しました。詩の絵本とでも言いましょうか、線画と短い言葉で作られた三編の物語が収録されています。七月堂はやはり文字系に重心が傾いている出版社ですので、カラーばりばりの本というのは数えるほどしかありません。今回は線画ということで、それならば何とかなるであろうと引き受けさせていただきました。お客さんの求めるイメージに近づけられたならば嬉しいです。
 150×150という正方形の可愛らしい本です。個人的なイメージですが、三時のお茶にシナモンが効いたクッキーを食べながらゆっくりと読みたいような、そんな本です。50頁ちょっとの長いとは言えないお話ですが、ゆっくりじっくりと絵を眺め、読んでいると本当に絵の中に入った気分になります。現実逃避したくなるような暑さがここ最近続いています。しばしの間この『せんのえほん』で暑さを忘れてみてはいかがでしょうか。

No.0020 2014年06月04日 O